分散学習システム(SRS; Spaced Repetition learning Systems)を使ったアプリケーションに問題を登録する際に、どうやって登録すると良いのかと自分なりにまとめた内容を書きました。
僕はAnkiというアプリケーションを使っていますが、他のSRSアプリでも同じように使えるはずです。
内容は主に次の3つ。
- Ankiを使うメリット
- 物知りのほうが学習において圧倒的に有利
- 問題の登録パターン4つ
忙しい人は、避けたほうが良いことと冗長性の2つを飛ばすと短い時間で読めます。
Ankiのメリット
記憶関連の認知バイアスに次の2つがあります。
- 間隔効果 (Spacing effect)
- テスト効果 (Testing effect)
間隔効果は短い期間で集中するよりも、長い期間に分散したほうがよく覚えているという性質。
テスト効果は、適切なテストを受けると記憶が強化される性質。
どちらもAnkiのメリットですが、テスト効果を得るには問題の登録の仕方が大事になります。
Ankiする前に
理解していないものを暗記してしまうというのは、学習において最も頻繁に起こるミスだそうです。
なので、次の3つをクリアしてから問題を登録したり学習したりするようにしましょう。
- 意味づけをする=自己関連効果 (Self-relevance effect)
- 全体を学ぶ
- 事実情報を覚える
ブログ記事を書く時も同じかな。
人間は自分と関係しているものにしか興味をしめさない
これを知った時、僕はちょっとショックを受けましたが、今は心の底から納得しています。
意味は理解の第一歩であり、単純に意味を見いだせないものを学ぶのはモチベーション的にも非常に辛い。
「自分と関係しているもの」に注意が強く引き寄せられるのは、広告の世界でも学習の世界でも同じのようです。
こういったブログの書き出し部分でも、「読み手に自分の事だと思わせる」というのは重要と言われていますし、自分と似ていると思える人ほど親近感が沸きますよね?
- この問題を覚えると、どんな良いことがあるだろう?
- この問題は自分の生活と、どのような繋がりがあるのだろう?
- これは話のネタとして役に立つだろうか?
価値を見い出すと学習の効果が劇的に変わるということです。
逆に言えば、その物事になんの価値も見いだせないのであれば、ソシャゲくらい簡単なことじゃない限り覚えられないと思います。
全体を学ぶ
完璧ではなくサラッと理解すればいいそうで、むしろシンプルなほど良いそうです。
簡単な要約をするとか、1枚の図を書いてみるとか、それくらいで良いのかなと思います。
ちなみに要約、図を書くの2つは問題解決の典型と言われています。
事実情報を覚える
事実情報というのは、ネットで検索すればすぐ出てくる基本的な情報のことです。
1 完了していないことをよく覚えていること
2 完了していないことはモチベーションが高いこと
このような情報を事実情報といいます。
「今持っている知識が、その人の潜在的な学習能力を予測する最も確実な手がかりのこと」を知識効果(Knowledge effect)というのですが、つまりは物知りのほうが学習において圧倒的に有利なのです。
上の問題は僕のAnkiにそのまま登録してある問題なんですが、「ツァイガルニク効果の意味がわからないうちは、上の問題を登録しないほうがいい」ということですね。
Ankiに問題を登録する
最小情報原則
問題も答えも短いほうが、覚えやすいし取り出しやすいという意味。
ユーモア効果
面白く説明したほうが記憶に残りやすい性質。
一般的な問題が面白くないのは、ユーモアは人によって違うからですね。
自分で作ったフラッシュカードは自分しか読まないので、何も心配はなさそうです。
要約やコメント
意味づけに繋がるので、書いても良いらしいです。
最小情報原則とは矛盾しないのだそうです。
言葉は優しく
心理的リアクタンス (Reactance) といって、選択を強制されると反発してしまう性質があります。
なので自分に語りかける言葉は優しく、問題文も優しい口調にするのが良いでしょう。
自衛隊では、訓練の時に「銃を撃て」と命令する際、漫画やアニメのように「打てー!!」と言わずに「打て(耳元で甘く囁くように)」と優しくイケボで言うそうです。(友人に聞いた)
穴埋め問題は簡単で効果的
穴埋め問題は作るのが簡単で効果も高いそうです。
覚えたい箇所をコピーして、穴埋め問題にすれば作れるので簡単ですね。
ちなみに系列位置効果 (Serial position effect) といって、最初と最後は記憶できるけど、真ん中は記録しにくいので、なるべく真ん中のほうを埋めるようにすると良いのかな。
記憶術を使え
マインドマップやペグリストのようなものですね。
マインドマップに関しては僕はiMindmapを持っているくらいの使い手ですが、初期の理解を助けるという効果は確かに高いです。(毎日起動しない人は無料のXMindを使おうね )
長期記憶には適していませんが、先程いった全体を学ぶのには最適です。
画像を使え
画像優位性効果 (Picture superiority effect)といって、画像のほうが記憶も処理もしやすいです。
小説よりも漫画のほうが圧倒的に読みやすいのは、人間の性質(バイアス)によるものです。
- 画像の穴埋め問題も効果的
- マインドマップも効果的
- マインドマップの穴埋めも効果的
ただし、画像を用意するのは文字のみに比べて少し大変。
画像の編集に慣れている人ほど、画像の穴埋め問題の作成コストが低いので有利ですね。
避けたほうが良いこと
人生で、どうしても覚えられなかったことがあったならば、とても参考になると思います。
集合
集合とは物が集まったもののことで、例を挙げると次のような問題です。
- 同じクラスの男子の名前は?
- 日本の都道府県は?
- 宮崎駿の長編映画は?
集合は記憶のコストが非常に高く、余りにも高いために、まず覚えることができません。
脳の動き方は復習のたびに一定であるべきなのです。 集合の場合、復習のたびに異なる順序で要素を並べてもよいので、記憶に対して破滅的な悪影響を与えます。
記憶術・列挙・グループ化といったテクニックを使わないかぎり、5つより多くの要素をもつ集合を記憶することは ほぼ不可能です。
効果的な学習法: 知識を定式化する20個のルール (9/20) より抜粋
個人的な経験をあげると、東方非想天則という10年前に物凄く流行った対戦ゲームの中に、天候というものがありました。
天候は20種類あって、最初は快晴から始まり最後は極光と順番どおりに巡っていくというものです。(快晴が1番目、極光が20番目)
ですが、100万人近くいたプレイヤーの誰1人、この順番を覚えることができませんでした。
列挙
集合は一度列挙に変換すると良いそうです。
集合よりも情報量が増えますが、記憶の取り出し方が常に一定なので、覚えやすくなります。
アルファベットをAからならば、順番通りに言える人が多いでしょう?
でもAからZまでだとちょっと難しい上に、取り出すのに時間がかかりすぎる。
木曜日は、水曜日と金曜日の間
情報は、このように取り出したいのです。
なので、穴埋め問題をたくさん作ると良いのです。
A.○.○.D
D.○.○.G
東方非想天則の天候もこのように覚えれば良かったのです。
集合は列挙に、列挙は穴埋め問題に変換しましょう。
記憶の干渉
似たような物は混乱するという話、僕にも最近起こりました。
- Q スプリッティングって何?
- A 全か無か、ゼロか全てかという極端な思考のことを言う。
ですが、僕の知っているLOLというゲームにスプリットプッシュという用語が出てきます。
なので覚えにくかった。
ボーリングを頻繁にやる人ならば、スプリッティングという単語を見たら、間違いなく残ったピンの中間が抜けている配置をイメージするでしょう。(その配置をスプリットという)
僕の場合は、問題文に「認知の歪み」というタグを付けることで解決しました。
冗長性
必要以上の情報や重複した情報 のこと。
つまり、細かいことなのでオタク以外は別に覚えなくても良いという要素です。
興味が沸かなかった人は次の大見出しまで飛ばしましょう。
受動・能動アプローチ
- Q1 砂糖入り飲料を飲むと起こる、血糖値が急激に上がったあとに、急激に下がる現象のことをなんていう?
- A 血糖値スパイク
- Q2 血糖値スパイクって何?
- A 砂糖入り飲料を飲むと起こる、血糖値が急激に上がったあとに、急激に下がる現象のこと
記憶の生成効果といって「自分で作り出した情報は忘れにくいよ」ってことです。
理解の手がかり
血糖値スパイクの答えの欄に、「砂糖入り飲料はケーキや白米とは比べ物にならないほど、血糖値が上昇する」と言ったことを書いておくと良い。(砂糖入り飲料は一度にたくさん飲まないほうがいいです)
導出過程
複雑な問題を解く場合にはプロセスを1段階づつ記録したほうがいい。
複数の意味の表現
問題文は3つ、でも答えは全部同じ。
つまり、答えが同じ質問を3つ作る。
その事実情報の価値が高い時にオススメ。
答えが複数ある場合
どれを答えるべきかのヒントを問題文に書く。
Q スプリッティングって何?(認知の歪み)
どれを選んでも正解とする。
Q アナロジーを日本語で言うと?
A 類推、類比、類似、比論、推論。
実際の登録パターン
問題も答えも、心理的リアクタンスとユーモア効果を意識して書くと良いでしょう。
Q(カードの表)
- シンプルな問題
- シンプルな問題+自己関連効果
- 穴埋め問題
- 画像の穴埋め問題
この4つ。
A(カードの裏)
- シンプルな答え
- +要約
- +ソース
- +日付
- +タグ
全ての問題に全部書くのは大変だと思います。
僕はシンプルな答え以外、欲しいと思った時だけ付け足しています。
まとめ
- 理解していないものを暗記してはいけない
- 自己関連効果は物凄く重要
- 集合と列挙は避けよう
- 最小情報原則は大事
- 穴埋め問題は簡単&効果的
こういったルールに従うと、人間は理解しやすいという仕組みだそうです。
なので当然、人と話したり文章を書いたりといった、コミュニケーションにおいても重要であると思います。
問題文を登録するのは大変ですが、自己テストを受けるのは本当に楽で快適です。
復習は簡単かつ楽しい。
参考にした記事や本など
僕がAnkiを導入したきっかけです。
認知バイアスを全部覚えたいと思ったんです、知識効果的にね。
SuperMemoの作者の記憶方法の日本語訳。
その作者は論文を書いたりするような記憶マニアなので、興味のある人は原文も読んでみるといいでしょう。(英語だけど)
米Amazon 2017年ベスト・サイエンス書
学習学の本です。
本の中で、学習や練習が大変なのは当たり前だと書いてありました。
ならば私達の人生が辛いのも、当たり前ですね。
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